応急処置法 西勝造

応急処置法

西勝造

近時、時局の緊迫につれて、真剣に救護法のことが考えられ、これを各方面で、熱心に研究、錬磨されておるようですが、西式の応急法について、大体のところを述べてみましょう。

まず外部の損傷。汽車、自動車、電車等に轢かれる。機械に巻き込まれる。銃や刃でやられる。苛烈な戦いの最中ですから、この大出血ということは、非常に多いことと思います。隣組の訓練もこのことについて特に訓練を必要としましょう。三角巾の使い方については、無論結構です。出血を止めるために、包帯をするのは、結構ですが、その場合の処置法について、力説したいことがあります。それは、その場合には、手と足を、全て上へ揚げて処置することであります。このことは、ドイツのランゲの「救急法」などにも、寝かせておいて、足を持ち上げて、包帯すると、出血も少なく、化膿もしないと述べてありまして、この点我意を得たりの感があります。手足を上へ揚げて、処置すれば、出血も少なく、化膿もしないのです。またこの傷が、手足であった場合は、何も付けないでもよろしいのです。血の出ないように、縛っておいて、これを上へ揚げて、毛管運動をするのです。上に揚げて振るのです。これは、身体の傷にしても、手足をあげて充分に振っていると、化膿は避けられるのであります。先日のこと、現役中尉の方が見えられて、拇指を真直ぐに切ってしまわれたが、それを振って治したと語られておりました。ハンカチで縛っておいて、1日振っておられたそうですが、まったく完全に治ってしまったと喜んでおられました。よく熱いものに触れたときに、思わずアツツと叫んで、手を振りますが、あれが自然の内に毛管運動の形をやるわけです。これは西会員なら、充分に心得があることでしょうが、特にこの際のことですから、会員外の方にご注意を喚起したいと思うのであります。これによって一命を完全にとりとめ得るのです。

挫傷の場合は、捻れたのを、これを戻して、毛管運動をやる。刺傷の場合も、クリマグでも塗って、毛管をなさればよい。充分に振ってさえおれば、傷口に何か入っておっても、出て来ますし、出ない場合でも、一旦治ってから出て参ります。銃創のような場合でも、手足でありましたら、盛んに毛管運動をやれば充分です。これも先日、現役主計の方が見えられて、相当弾丸を受けたが、自分は幸い毛管を知っておったで、訳なく治すことができたと、その傷口を見せられました。その方の話では、同様な傷を受けた同僚たちが、みんな化膿して困ったのに、自分だけが、毛管を充分にやって、救われたということでした。平和時でも必要ですが、戦時には、特に、これを心得ておいて戴きたいのです。

人事不省の場合の処置。これについては、いつも断片的には申し述べておりますが、人事不省ですから、意識が消失し、何らの受け答えが無い場合です。この場合は、顔が蒼かった場合は、枕をしないようになさる。顔が赤かったら枕をする。そして顔に触ってみて熱くなるようでしたら、毛管をなさればよろしい。熱くならないようでしたら、そのまま静かにおけばよいというのが、人事不省の場合の一番よい方法であります。

骨折の場合にはこれは単純骨折とか、複雑骨折とか、いろいろの場合がありますので一口には申せませんが、まず普通の場合は、副木をして、微動毛管の方法をとる。

毒虫に咬まれた場合。南方に行かれている方は、特に多いことと思いますが、これは、全て毛管でよろしいのです。かなり酷く蛇のようなものに咬まれた場合でも、毛管でよいのです。マラリヤ蚊に刺された場合でも、朝晩毛管をなされると、何でもなく助かります。血液の循環ということが大切なのです。眼、耳鼻、食道などに、異物が入って困っているときには、臍を押さえて、頸椎7番を叩くと、異物は出てしまいます。

日射病の場合。これはご承知のごとく塩素と一酸化炭素の化合、ホスゲンガスのために起こるのですから、斯様な場合には、日蔭に連れて行って、水をふツかけてやる。ホスゲンガスは水に解けてしまうのですから、裸療法よりも、水のほうが大切です。それから日射病に罹ったときには、何か必ず食わすことが肝要です。胃塩酸が出て来たのですから、何か食物を与えると治るのです。

凍死、凍傷の場合。寒いところで、機械などを手袋を脱いでいぢっていて、俄かに暖めたりすると腐ってしまう。手を外に出していた場合は、俄かに暖めないで、冷たいものから順次に、暖めて行く方法をとらねばならぬ。凍死の場合なぞは、凍死と言うからには、雪中のことですから、雪で身体中を擦ってやるとよい。類は類を治す理屈です。それから凍傷の場合、気を付けねばならぬことは、鉱物性の油を付けるということです。同じ油でも、植物油とか、動物油とかを付けたのでは、凍傷を起こします。嘗て志賀重昴先生が、樺太の50度線の設定に行かれたときに、日本人は凍傷で倒れるが、ロシヤ人は少しも凍傷を起こさない。北緯50度、北極星を睨んで、50度位の位置を決定して、石を立てるわけですが、日本人は凍傷でやられるが、ロシヤ人は平気である。ロシヤ人は、寒さに馴れているし、脂肪分を多く摂っているからだろうということになった。確かに、脂肪分の関係はあるでしょう。赤道に近いところでは、脂肪分はあまり必要としない。北緯70度というようなエスキモー人たちは、食物の7、80%は、脂肪を摂っている。北緯50度辺で、50%位、我々35、6度辺が、35、6%、赤道に近くなると、3%も摂らなくてよい。だから、凍傷に対して、脂肪分を摂らぬの関係もありましょうが、それよりも、この測量の場合の凍傷は、付けている油の関係があったのです。ロシヤ人は、鉱物油を付けていて、日本人は植物油を付けていたわけです。このことは、北方へ行かれる方の心掛けねばならぬことです。

服毒の場合、劇薬を誤って呑んだというような場合には、手当と申しても、いろいろと量によって異なって来ます。吐かせる場合もあれば、浣腸する場合もあります。裸療法と温冷浴をやる。浣腸をする。なるべく上へ吐かせるほうがよいのである。

出血の処置。鼻血、歯の出血、吐血、子宮出血等と、種々ありますが、鼻血でどうしても止まらないという場合には、食事を減らすことを考えねばなりません。鼻血というものと、食事を別々に考えて、食事は、食事として摂らねばならぬものと考えてはいけません。これを要するに、一朝事があったら、全然、断食をするという精神があれば、もう病気は、ほとんど考える必要はないのであります。特に、鼻血の場合などには、適切なことです。歯齦から血が出ることがあります。これは、つまりは、ビタミンCの欠乏から来るのですから、一時クリマグでも塗っておいて、止血する。一方では、充分にビタミンCの補給をすることが肝要です。喀血、これは、肺を患っていると手足が冷たくなっていて、血が回らないのです。血が回らなくなると、今まで身体全体に循環しておった血液が、急に手足に回って行かなくなって、肺の弱っておるところを破って、喀血して来るという順序になるのです。ですから喀血したときには、これは手足が冷たくなって、血液が回りかねて、肺から一時血が出て来たのであろう。こうお考えになってよい、そして悠々と、食事を止め、手足に袋をはめて、暖をとることが必要です。一方には、塩水を飲む。塩水を飲めば、下痢をするかも知れませんが、その傷口は、すぐ直ることになりますから、そういう方法をお採りになるのがよろしい。ただし吐血の場合でしたら、断食以外に方法はありません。吐血は、胃袋からですから、断食による外はないのです。子宮出血の場合は、合掌合蹠をなすって、煙突療法によります。塩水を飲むことも必要です。その他眼底出血、皮下出血とかいう場合は、頸椎7番を叩くと治ります。

嘔吐の場合。嘔吐は、太陽叢を押さえて、姿勢を正し、頸椎1番を叩けば、出してしまいます。よく下っているから、水を飲もうとするが、吐気があって飲めないという場合に困ることがありますが、その場合は、吐くものは、吐かせるのがよいのです。

腹痛の場合。よく突然、腹が痛み出したと申しますが、突然ということはないのであります。必ずその前に、痛み出すべき原因は、何から来るかというと、腸の壁が割れる場合、あるいは、玉蜀黍(*トウモロコシ)を3本も食べて、水を5杯も飲んだという場合です。腹の中で、玉蜀黍は、膨張し切って、急に排泄しようとするから、腹痛を起こすのは当然なことです。そういう場合には、金魚運動をするのが一番です。金魚運動をやれば、上に出るものは上に出る。下に出るものは下に出てしまいますから、けろりと治ります。

下痢の場合。下痢のときに、いくら水を飲んでも止まりませんと仰る方がありますが、繊維類を摂っているからです。繊維のものを食べずに、水を飲めば、下痢は止まるのです。

発熱の場合。寒気と、発熱は同じでありますが、小児のひきつけ。これは、腸の宿便から来ているのですから、大騒ぎを演ずることなく、じっとしておけば治ります。そして腸の宿便に対して方法をとればよいのです。

癲癇の場合。これは蟹ばばという、いわゆる胎便の停滞から来るのですから、よろしくこれを出してしまうべしです。

卒中の場合。この場合は、倒れたらねかしておくという方針でよい。中風というのが、大体において、夜更けに帰って来て、物を食べるというような生活を続けていると起こるのです。

家庭常備用具。何が必要かというと、消毒薬はもちろん必要でしょう。塗薬、服薬としては、私なぞはクリマグ1つあれば、外に何も必要といたしませんが、とにかく、あまり常備薬の揃っているような家が、病人の多いことは明らかなことです。

看護法。看護にあたって体温表を作る場合もありますが、これは、方眼紙に、縦に体温、横に脈拍の目盛りを置き、その曲線を求める方法がよい。この曲線によって、自ら遺伝的なものさえ見出すことができる。40度とか、41度という熱があり、逆に脈拍が50きりしか打たない。そういうときには、従来のインフルエンザ菌ではなくて、特殊の腸チフスというような、血液の中に、平等に流れ込む黴菌が入ったと見ることができます。普段の熱と全然違う熱型を起こしているから、これはチフスだとわかるわけです。そういう場合には、水という条件を考えねば危険であり、一方には、ビタミンCの補給を考慮せねばならぬわけです。左様な場合に、水を飲むことをせぬと、肺炎を起こすと思わねばなりません。

消毒法。消毒法としては、煮沸消毒、日光消毒等があります。これもあまり気になさらずともよろしいのです。伝染病予防にいたしましても黴菌が入って来たら、直ちに、これを排泄するということを納得なさればよいのです。問題は、我々の身体が、健康であればある程、その症状が激しく現れると、お考えになると病気に対する気持ちが、まったく違って参ります。

最後に、飲食上のことを、ちょっと述べておきます。今まで酸とアルカリということにつきまして、随分某先生の提唱するところでありましたが、これは大層な間違いであるということが気付かれて参ったようです。何故かというと、熱によって一方的に偏して来ますから、それに対応する食事を加減して行かねばならぬわけです。同時にまた安静しておるということも考えねばなりませんから、ただ表の上で、酸とアルカリを揃えたものをやれば、健康になるとお考えになると大変な間違いとなるわけです。

『健康科学』第7巻第6号 昭和18年9月15日発行

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