黒焼きの話 西勝造

西勝造著作集 第12巻 道は近きにあり 

西勝造 柏樹社

20 黒焼きの話

私は「食物中の灰分が必要」ということを主張しているが、結局黒焼きは灰分として効果があるのである。

黒焼きは、昔から薬用としており、黒焼き屋は徳川時代から連綿と続いているのがある。黒焼きははたして効果があるか。

たとえば、夏は魚が腐りやすいが、特にサバは生き腐れなどといって、特に腐りやすいものだから、この中毒も珍しくない。こんなときは、残ったサバを素焼きの壺に入れて蓋をし、炭火で黒焼きにしたものを粉末として、これを盃1杯ぐらいを清水で飲めばすぐに治ってしまう。一般に物にあたったら、その食べ残りを黒焼きにして飲めば解毒する。これは、「類は類を治す」とか、「毒は毒をもって制す」ということである。たとえば、二日酔いには「迎え酒」がよい。「頭がふらふらするのに、まだ飲ませろなんていけませんよ」というのは間違いである。こんなときは、「さあさあ1杯」として奥さまが出すと、ご主人はそれを飲んで元気づき会社に出かけてしまう。飲ませないと、2、3日は残るから、気分も悪く会社を休むことになる。「類は類をもって治す」 Like curke like とは、フリードリッヒ・ハーネマン氏の類似療法(ホメオパシー)の説で、黒焼きの解毒作用もこれで説明できる。これはまた、古くは16世紀のスイスの解剖学者パラケルススが「類似のものは類似のものを治す」(Similia similibus curantur)と主張し、これによってチャールス・エッチ・ダンカンは自働療法(オートセラピー)を創案した。

黒焼きは、右のごとく解毒剤として有効であるが、その学説にはいろいろある。文政5年歌川安斎の『医方名物考へ』や、慶応2年坪井真竜の『百品考へ』等に、獣炭について記述されている。また明治10年に安達幹の書いたものや、近くは大正4年11月号の『実験医方』にさる医学博士が、やはり獣炭について述べている。

黒焼きについての学説には、まず7つばかりある。

(1) カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム平衡説

(2) ビタミン説

(3) タール説

(4) イヒチオール説

(5) 色素説

(6) 熱的(膨張性)および冷的(収斂性)、ならびに光線説

(7) 酸および塩基平衡説

黒焼きは、確かに効く。その飲む量はどのぐらいかと言うに、1回の使用量は、1gないし10gの見当で、1日3回服用する。それ以上はいけない。内服の場合は冷水で飲むのが一番よろしい。外用の場合は、梅酢で溶いて用いる。

黒焼きは、光線学からも、また色素学からも説明できる。黒焼きのてきめんに効くのは、脱肛に対するタニシの黒焼きをゴマ油で練ってつけるか、あるいはモグラの黒焼きを粉末として、ゴマ油で練ってつけるのである。黒焼きを分析すると、大部分は炭素であるが、その中には収斂性と崩壊性との灰分があり、いろいろのエッセンスも含まれていて、単純な炭素のみではない。その効果のある黒焼きが、識者の間に排斥され、軽蔑され、迷信視されるのはなぜであろうか。それは、イモリの黒焼きにある。

イモリの黒焼きは、俗に惚れ薬といわれているが、素焼きの壺の中にイモリを2匹入れ、これを微火で姿焼きにすると、2匹は相互に頭と尻とを逆にし、抱き合って死んでいる。そんな点より惚れ薬ということになったものと思う。しかしメス同士入れて焼いても、頭と尻と反対に巻きついて黒焦げとなっている。カエルでも同様だ。それは微火で焼くからであって、だんだん熱くなるから初めには暴れるが、ついには互いに巻きつくらしい。初めから強火で焼いたのでは、抱きつくかどうか。

黒焼き屋では、イモリの黒焼きを買うお客があると、巻きついたままの姿を客に見せ、それから粉末にして袋に入れて渡す。これが商売の秘訣であるとか言っている。

東京のある会員が、効くかどうかと思って、買って試験したが、効かなかったそうだ。しまいには、暗がりがよかろうと思って、映画館内でやってみたが、やはりだめであった。それよりも、単刀直入のほうが早いと言って笑っていられた。こうしたことから、一般の黒焼きまで迷信扱いを受けるようになった。ある医学博士は、自分が医者の癖に、自分の持病には常に黒焼き屋から黒焼きを買って飲んでいたのを知っている。黒焼きは、結局腎臓系統によく、その機能を促進するものである。

黒焼きなどは、医師法とはおよそ縁の遠いものであろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました