断食について(7) 西勝造

断食について(7) 

西勝造

妊娠中の断食

先にも述べたごとく、慢性疾患は、たとい結核病のごときものであっても、妊娠中は減退するものが多い。妊娠中においては、婦女子の体内に、著しい変化、つまり春機発動期や青春期に見られるものに近い発達的変化が起こるのである。弱い心臓、弱い肺、弱い腎臓、弱い神経系統は、いずれも強化されるものである。長く眠っていた諸腺は一勢に醒めて活動してくる。つまりその全身体は、強化、更生の過程を受けるのである。しからば妊娠中によく脚部が腫れて、脚気症状を呈するのはどうしたことかと反問されるであろう。西式を心得られたご婦人では、そうしたことは皆無であるが、これは足の故障から、腎臓を完全に働かすことができないためである。しからば何故に足に故障を起こすかと言えば、妊娠をすると重力の関係から足の関節の支点に狂いを来し、力学的に腎臓に影響を及ぼし、脚気症状を呈するのであるが、出産してしまえば直るものである。

幾多の女子が妊娠の初期に体験する吐き気や嘔吐(つわり)食欲不振およびその他の症状は、かかる意味において了解されるであろう。西式生活を送ってきて健全である女子は、かかる症状の痕跡さえも具示せぬであろう。妊娠前に安全な更生を受け賢明な生活をしてきた婦人は、決してかかる”妊娠”の徴候を体験することがないであろう。

しかし、実を言えば、これは妊娠の徴候ではない。これは更生の徴候なのである。換言すれば、これは自然が家の大掃除をやり始めたことを示すものである。つまり身体が、妊娠と分娩に適応した形態に整えられてきたことを示すものにほかならない。これに注意を払えば、全てのことは、うまく取り運ばれてゆくであろう。何らの注意が払われなくとも、自然は反対や干渉に屈することなく、その仕事を完成させるのが通例である。しかし時によると失敗に終わることもある。我々が、自然に協力してゆくとき、その仕事も一層完成し満足すべきものとなることは言うまでもなかろう。

いずれにしても、かかる症状が発生するのは、家の掃除の必要であることを示す確実な具証にほかならない。食欲不振、吐き気および嘔吐が起こるときには、そうした症状が消散し食欲が明確に現れてくるまでは、水以外の食物を絶対に摂ってはならぬ。断食について恐るべきものは何もない。自然の厚生作業が完了して母体や胎児に何らの危険もないようになれば、かかる症状も終止し、自然は食欲を与えるであろう。

断食こそは、自然が最も直裁な方法で、我々に欲求しているところのものである。自然は、たとい、我々が食物を摂る毎に、これを我々の顔へ投げ返して行かねばならぬとしても、数日間の断食をどうしても決行するのが通例である。断食と同じく休息が必要であると自然は叫び続ける。したがって、我々はその命令に従わなければならないのである。

もしもかかる厚生の仕事を完了させ、婦女子が正しく食べ、正しく排泄し、正しく眠り、正しい姿勢を注意しながら生活してゆくならば、妊娠中再度の断食をおこなう必要はないであろう。しかし、妊娠中の婦女子が、2人前食べたり、慣習的に不衛生な生活をおこなうならば、胸やけ目まい風気、頭痛、便秘およびその他の重症性障害に悩まされるであろう。時によると急性疾患の起こることもある。

かかる場合における疾患の処置は、他の時期に起こる疾患の処置と何ら異なるところがない。妊娠中の婦女子も、急性排泄分利に直面していることが明らかなる限り、断食をおこなうことに遅疑すべきではない。断食することは、疾病期間を短縮し、母体にも胎児にも何らの害を与えないことを説得してやるがよい。他面において、かかるときに食物を摂ることは母体をも、あるいはまた、胎児をも裨益しないことを説示してやるべきである。

慢性疾患は、妊娠中でも、他の時期のときと同じように処置しなくてはならぬ。しかしながら、妊娠中の慢性疾患に対して、長い断食をおこなうことは賛成しがたい。短い断食をおこうこと、たとえば5日間とか1週間というごとき短い断食を重ねておこなうことについては、別に反対すべき事由がない。しかし3週間とか4週間に及ぶ長い断食は、当然避けなければならぬ。本当から言えば差し支えはないのであるが、種々の疾患が一度に健康への回復のため一種の瞑眩として、名状すべからざる症状を起こすこともあり、卒倒することもあるから長い断食は差し控えたほうがよいのである。ハッザード博士は言う

”妊娠している女子が断食をおこなうと、彼女の組織は、心臓および脳のごとき不可欠なものでさえ胎児を適当に養うてゆくに必要となれば、効用されるであろう”云々。

これは確かにその通りである。しかし、これは我々の探究せんとしているものではない。組織がその重要性に逆比例して犠牲にせられているという原理により、なくてはならない器官は、胎児のために、これを犠牲とすることが必要となるまでは、傷害せられないのである。しかしながら、女子というものは、自己の毛髪、爪または歯のごときものでさえも失うことを欲しないし、できうればそうしたものの犠牲を避けようとするのである。ところが今日のごとき摂食法をとる限り、女子は、妊娠中に歯を失い、歯に窩をつくるのが関の山である。

慢性疾患に冒されている妊娠中の女子は、その必要のあるときや、効益のあるときには、短い3日とか5日、7日の断食を遅疑せずおこなうべきである。しかし長い3週間式の断食は、急性疾患のため、その必要の生ぜざる限り、避くべきであろう。急性疾患には摂食しても、栄養は身に付かないのである。

私はかつて一婦人から流産のみをするので、どんなご下命でも守るから、指導をしてくれとの懇願を、引き受けましたと承知した。それから半年ばかりして、その婦人の妊娠していることを知った、西式を実行しているために吐き気も嘔吐もない、つわり症状がない、しかし何となくお腹が膨れている、硬いものがある、何ですか、と問われるから、心配はいりません、7、8ヶ月の後にはわかります、治ります、心配無用と言って帰しました。しかし腹部が変だといって他の医師にも見せたが、何ら異状なしとのことであった。月日の経つのは早いもので6ヶ月過ぎた、寮に入って2週間の断食をやってもらった。私は新潟方面の講演を終わって帰京して、おもむろに妊娠を告げて流産をしない安産を予期して上野駅に着いた。試みに寮のほうへ電話をしたら、院長は直接に電話口に出て、「生まれました」と最初の口頭であった。「女の子でしょう」と言ったら「驚きましたね」「すぐ行きますが、予定が10日ばかり早いのはどうしたことでしょう」「どうもしませんが、西先生が、あの室内には器械を持ち込んではならないとの厳命であったが、実は指導主任が2、3日前から勝手に入れて金魚運動をやらせたのです」「わかりました、それで早くなった、困ったものだ、すぐ行きます」。寮に行くと上を下への大騒ぎである。10日ばかり早かったので全てが食い違ってしまった。妊婦の母親、その知人や指導主任から、詰問された、私はおもむろに懐中手帳を出して、見てください、インキで書いてある、10日後のこの日に○○さん安産予定日、○○子爵家の来月何日頃というのもあり、高貴のお方様の4ヶ月の先のご安産予定というのもあることを示し、現にインキで他家のものまで記入してあるのを見て、そのほうはそれでよかったが問題は赤子の体重は440匁、夫なるものが私を訴えると言って小児科専門の医博を連れて診せたところ、完全に育たないと断言した、私は完全に育つと断言した。温冷浴の結果は370匁となった。私の配下にちょうど、出産して2週間目のものがおった。それを頼んで病院に連れ込んで授乳をやらせた、だんだん育って3週間で完全のものにして先方に渡してやった。1ヶ年目には他の1ヶ年目の小児より大きい位に育った、3歳になるまで東京におられたので、その後も種々の相談を受けたが、その後、関西方面に主人公が転任したので今はどうなったか知らない。何故私が妊娠ということを言わなかったか、妊娠と言えば、臨月1ヶ月前に2週間の断食をさせたか、骨盤の狭い婦人には胎児を大きくしないで産んで、後から大きくすることを指導すればよいのである。そのときの主人公は気狂いみたいに怒号していた、私のあまりにも平然たる態度には一言の怒気もなく、私があまりにもにこやかに相対していたせいか黙然たる様子であった。しかし室に戻ると訴える訴えると言っていたそうであるが、完全に生むように願いますと母親から頼まれて、流産をせずにお産ができればよいわけだが、あまりに小さ過ぎると不平を言い、小児科専門の医博まで連れて来て、余計なことを言うものだから、軽率なことを怒号していたのである。指導主任にも言っておけばよいのであるが、なかなか秘密というものは保てないもので、漏れてしまっては却っては一大事出来したかも知れない、妊娠中に断食をさせたということ、妊娠を知ってからは全て胎児の栄養上どうなることかと取り越し苦労をすることなど大変なことになったかも知れない。それが万事都合よく片付いた。

授乳期中の断食

必要とあらば、授乳期中でも、断食をおこなうべきである。その必要のないときにはかかる断食は避けねばならぬ。それというのも、断食は乳の分泌を停止させるばかりでなく、3日または4日の断食によって乳の分泌が減少を来すと、その後、正常通りの摂食をおこなっても元の通りにならないことが多いからである。だから授乳中どうしても断食療法でもしなければならない事情にあるならば、生野菜を5種類以上1日の量として350匁から400匁、時によっては600匁位も摂らなければ足りないことがある。もちろん、擂り潰して泥状としてたものを摂食するのである。しかるときは授乳期中でも断食をしたと同じ効果をあげることができるであろう。

授児期中の断食

嬰児の食欲が自然に失われたときには、再び、食欲の起こってくるまで断食をおこなわすべきである。疼痛、熱、炎症の起こっているときにも、食物を与えてはならぬ。嬰児は、数日断食させても何らの傷害を被らないものである。嬰児というものは一時迅速に体重を失うが、断食をやめれば迅速に体重も元通りになる。嬰児が成人と同じほど長く断食をおこなわねばならぬことは稀である。私は病める嬰児には遅疑せず断食をおこなわしめてきたが、断食によって傷害を受けたものは1人もなかった。

障害が軽くて、食欲がなお残存している場合には、嬰児は断食をさせようとするとかなりむずがるであろう。かかる場合には生の玄米を粉末にして、20倍の水にて重湯をつくり、2、3回裏ごしをし、さらに生野菜5種類以上を擂り潰し、ガラスに塗って固形物のないように裏ごしして与えるとよい。私は一授乳期中の嬰児の中耳炎で困っているのを相談受けた。医師のところへ3ヶ月通っているが、治らないという、それならばと先に述べた玄米粉の重湯と生野菜の泥汁を与えたら3日目に下熱し、手術の必要ないと言われたといって喜ばれ、1週間目には完全に治ったと礼を言われた。これは参謀本部勤務の某大尉の実例、また他の実例としては、消化不良で自分らの専門知識では駄目だと相談される某医師、入念に前記の重湯と生野菜汁、1ヶ月半ばかりで完全に治った。これも食べられないから自然の断食に入っていたが、リンゲルだのブドウ糖の注射をしても治らない。裸療法をやらせて、前記の重湯と生野菜汁で3ヶ月かかって完全に治った。

幼児期においてはオスワルド博士は言う。

”慢性消化不良は、ほとんど全て薬剤の連続投与の結果である。消化不良は、決して遺伝的な障害ではない。摂食上の誤謬を重ねたり、甘い菓子類をやたらに多く与えたすると、消化過程は、数時間ばかり乱されることがあるけれども、その障害は、休日が来れば消散してしまうのである。つまりショート・ケーキをしまい込み(隠すこと)コップ1杯の水を与えるだけにしてみるがよい、この小さな幼児は、その土地で最も険しい丘陵にも登れるようになっているであろう。しかし肝油錠を詰め込んだり、咳止めシロップやら鎮痛剤を浴びるほど与えたりしてみるがいい、1ヶ月か2ヶ月を経過すると、幼児は専売刺激剤で補助してならぬ限り、体内の欲求を満足させることができないようになるであろう(オスワルド博士著『自然の家屋掃除』60ページ)

(未完)

西勝造 「健康科学」 第7巻第11号 昭和19年2月15日発行

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