はじめての2日断食 大里秀之

はじめての2日断食 

東京 大里秀之

(会社員)

眠れぬ夜

11時30分ジャスト。

もっと早く眠るように指示されていたものの、自分自身の悲壮感に苛立ち、瞼は、いよいよ閉じようとはしない。

<Sの奴、俺をあざけりながらBAR・Kで飲んでやがるかも知れない>

<Uはきっと今頃、たらふく食って、複雑ないびきをかいているかも知れない>

<午前4時までやっている新宿のスナックSのナポリタン(スパゲティ)はいかしたぞ>

その昔、日本の軍隊に入った若者たちは、恐らく日本に物資が不足してきた、昭和18年から20年前の初め頃のことだろうが、途端に地方での食べ物のことばかり思い出され熟睡できなかったと聞く。

私の断食1日目は、恐らくそんな状況だったと思う。

KやYの奴どうだろう。5時半退社して、いつもの焼鳥屋で、いい気になって飲んでいるに違いない。レバ、モツ、シロ……。

次々と頭をかすめるのは、”食物”のことばかり。

「こんなことじゃあどうしょうもない」私は毛布をかぶり、気持ちを静めるために、知っている童謡を片っ端から歌うことにした。

「ギンギン ギラギラ 

   ユウヒガシズム

 ギンギン ギラギラ 

   ヒガシズム

 マッカッカッカ ソラノクモ 

   …………

夕日 葛原しげる作詞・室崎琴月作曲 Sunset

いつの間にか自分自身の子守歌に安らぎを得た。でも、自らの意志で食を断ち、体質改善に役立つという”断食”を始めたことに、決して後悔はしていない。

この際克己心を駆り立てて、精神的にも肉体的にも、1つの区切りをつけるのにはいいチャンス。

だいぶ前にテレビで見た8日断食には、私は感心しなかった。

しょぼくれた男女が、無気力な気だるい動きで画面に現れるだけでうんざり。おまけに宗教臭ぷんぷん。

断食が現代的であるはずのそれは、遂に1カットも垣間見ることはできなかった。私は、少なくとも、もっと積極的に、カッコよくいこうと思う。

今回の目標は、8日断食の小手調べ。

厳格なスケジュール

かつて断食については多くを読み、その体験者にいろいろ聞いた。私が、あえて西式の断食を選んだのには理由がある。

まず設備が完璧であるということが第一番。続いて、精神面より、体質改善にウェートを置いている点。そのために、断食中、体操や裸療法、温冷浴を確実に実施する。健康機にかかるのも、一般客に優先する。

「8日ぐらいの断食だと、割合減食や補食を厳格に考えるが、2日断食ぐらいだと、とかく甘く見て、断食前後のそれを、いいかげんに考える方が多い。しかし、これは間違いも甚だしい。2日断食は、もっともっと密度を高く、細心の注意を払っていただきたい。

たとえば補食ですが、期間が短いので、終わった途端、とかくがつがつ食ってしまう。結局そのため胃腸を壊す例も多く見られます」

断食を始める前日、会館の責任者が諄々と説明してくれた。この人の話には、1つ1つ強い説得力があった。

「断食が成功するか否かは、食事療法がうまくスケジュール通りに実行されるか否かにかかっています」

会館の責任者は私達を前に、無駄を一切省いた語り口で説いてくれた。

予想より楽に

入館して1日目、もちろん朝食は摂らない。それでいて昼、夜は減食。まず私は小食のほうだが、それでも普段の6分目見当だった。

2日目はさすがによく眠れた。会館の規定によれば、6時から裸療法と決められているが、私は5時頃から始める。ちょうど3月の半ばだった。朝方の冷えはこたえる。鳥肌がすさまじいが懸命に耐える。たまりかねて金魚運動をやったら、途端にぽかぽかと温まって爽快。

とにかく、どんどん水を飲んだ。

頭が冴えてきたように思う。今迄、何となく、頭の片隅でモヤモヤしていたものがすっきり。何となく、簡単に解決できそうな予感がしてうれしくなった。

本断食1日目は、何となく次々と食べ物のことばかりが頭に浮かび、眠れなかった。初めに書いた通り。温冷浴……水に入れると、足の先がちりちり痺れるようだ。砂時計は、近づいてみると、見事な統一で、よどみなくさらさら落ちているのだが、何としても、遅いムード。

本断食の前に2日間の減食をやったため3日目のように思えてならない。

すこぶる好調。水を飲む一日。もう明日一日だと思うと、初めに考えていた悲壮感が、バカバカしく思えてならない。瞑眩(めんげん)らしきものも起きないのは、「本質的に俺は体力があるのかな」

本断食2日目。朝の体操に、ハッスルしすぎたせいか、身体が気だるく、どうもいけない。気分転換に会館前を散歩したが、昨日と違い、脚の力がまるで抜けてしまった感じで、一歩一歩踏み出すのが億劫だ。すぐベンチやようやく芽吹きだした草の上に腰を下ろしてしまう。読書する気力もなく、散歩のあと横になり、ぼんやり天井を見つめて過ごす。まったくだらしない一日だった。

またぞろ食べ物の妄想にさいなまれたが、初日の夜のように、鮮やかな現実的ではなく、何となく締め括りがなく、尻切れとんぼの感じ。

補食1日目……。

気持ちの問題だろう。「今日から重湯が出る」と思うと、何となく浮き浮きした気持ちは否めない。前日の疲れのようなものが幾らか残っているが、目覚めも爽やかだった。

裸療法、体操も昨日と同じように続ける。

昼食に付いて出た、1個の梅干が、こんなにおいしいと思ったことはない。重湯も、どこへ入ったかわからないぐらいの量だが、充実感はあった。

2日目。体力は、普段の半分程度ではあるが、しゃんとしてきた。とにかく、私は第一の関門を無事通過することができた。

3、4ヶ月後に、8日断食をやろう。

西式健康法創始者 西勝造創刊 「西医学」 1968年10月号 第31巻第4号 

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