医事放談 樫尾太郎

医事放談 

医学博士 樫尾太郎

手相と健康

昭和41年2月16日付の毎日新聞は、

手相みて病気を診断

「占い」とは違う「皮膚理学」

米国医学者が型破りな研究

と題して、次のように報じています。

手相と言えば眉に唾をつけたくなる人も少なくないだろうが、これを病気の診断に役立てるという型破りな研究が一部で進められている。米国チューレン大学のハロルド・カミンズ医博、アルフレッド・ヘイル医博、ブルックリン病院のルース・アクス医博らが、掌の模様に取りつかれた研究者。彼らは周囲の冷たい目を他所に「これは、体の異常を探るレッキとした『皮膚理学』。運命を占う手相術などと一緒にされては困る」と意気込んでいる。

アクス博士が最近「ニューイングランド・オブ・メディシン」誌に発表したところでは、すでに約20の病気と手の シワ 模様との関連がついてきたという。その病気はモンゴリズム(蒙古性白痴)などの染色体異常、先天性心臓奇形、フェニルケトン尿症といった生まれながらの疾患ばかり。同じ心臓奇形でも、後天的な場合は手相に特徴が見られないそうだ。まだ症状のはっきりしない新生児の内に、診断を下そうというのが、この皮膚理学の狙いである。

もちろん、現在は皺模様と病気との対応関係を統計的に追及している段階。なぜそうなるか、というところまで行っていない。このため、同博士も「手相だけで診断するのはまだ危険。1つのデータとして他の検査と照らし合わせて利用すべきだろう」となかなか慎重な見解をとっている。しかし例えばモンゴリズムの患者の手相がかなり特徴的であることは、広く各国の医学者や生物学者に認められている。完全な証明がないからといって、一概にこの診断法の否定もできない。

     ×      ×      ×

モンゴリズムはダウン症候群と呼ばれる先天性の白痴で、目つきが蒙古人に似ているので蒙古症と言うのです。前額が広く鼻根が扁平で舌は大きく、アデノイドがあり、小指が弯曲し、皮膚はゴム状で、筋肉は弛緩し、骨の長さの発育が遅れているといいます。

現代医学では従来、皮膚紋理(指紋、章紋、足指紋および足紋)が個人識別や遺伝に関して研究されていました。紋理とは、 皮溝 (小溝)と隆線(小稜)によってできており、隆線は触覚を鋭敏にするためと滑らないために存在します。紋理は胎生期の3ヶ月頃から形成されるもので、一生不変です。遺伝の方面から先天性疾患の皮膚紋理に特徴があることが最近研究されだしたのです。

指紋では弓状紋が出現するとか、普通に人差指によく見られる 甲種蹄状紋(親指のほうへ流れる)が薬指や小指に多く出現するとか、隆線の乱れた部分性無指紋とかが先天性の発育障害などの病気に特徴と言われています。

掌紋についてはモンゴリズムではatd角が大きいとされています。ABCDはそれぞれ指三叉線(丘)であり、Tは腕三叉線でその位置が高くなる結果です。これは腕関節の回転運動が不完全で、手が不器用であることを示しましょう。

小指球にSとか変な紋が出てくることが先天性疾患にしばしば見られます。

ところで、生命線とか運命線とかはシワ(flexion crease)と呼ばれます。掌を横一文字に走るのをマスカケと言いますが、医学的にはサル線(simian line)と呼び、精神異常者に多いことが以前から報告されていましたが、蒙古症にも多く出現し、性腺発育異常症の患者でも多いといいます。

シワは紋理とは違って後天的にも変わりうるものであり、マスカケの人が銀行勤めをやめて管理職についたたら、数ヶ月の間に感情線と頭脳線に分かれてきたのを見ました。サル線は昔の古い仏像にもよく見られるということから、人類の原始時代にはマスカケが普通だったのかも知れません。

懸崖の立派な菊も庭に移して放っておくと、野菊のような平凡な花に変わってゆくように、高度に発達した人類も環境や生活法が不適当であると、「先祖返り」をして先天性の奇形や病気を発生するのかも知れません。

5月15日第1回皮膚紋理研究会が慈恵医大で開かれ、20数人の医学者が集まりました。現代医学では後天的の病気と手相に関しては全然未開拓と言ってもよく、西医学もたくさんの実例を集め、それを分析統合して、理論体系をつくる必要があると思います。病人の手相あるいは変わった手相がありましたらぜひ小生宛に資料をお送りいただきたく、誌上からお願いします。

手相を採取するには、黒の印肉(文房具屋にあり、郵便局のスタンプに使う)または謄写版用インク、やむを得なければ、青のスタンプインクを掌全体に万遍なく少し薄目につけ、西洋紙(グラビヤ紙が最上)を木枕あるいはビール瓶や一升瓶に載せ、5指を広げ、腕関節から始めて、手を転がすようにつけます。腕関節と掌の中心部、親指の付根がよくつくようにしてください。最後に各指は少し左右に転がすようにするとよろしい。それを左右別々に2、3枚ずつとり、日付を入れて保存しておかれると、何年か経って変化したのがよくわかります。私のほうへお送りいただくときには、別の紙に住所、氏名、生年月日、過去および現在の健康状態(または病名)、職業をお書きください。手相による観測結果とご注意をご返事いたします。もちろん、お名前は公表せず、秘密は守ります。

予防接種

伝染病の発生および蔓延を予防するためにワクチンその他を接種することを予防接種と言います。免疫の発生までには一定の期間を必要とし、また多少の副作用を伴う場合もあります。

我が国では昭和23年6月30日に公布された予防接種法という法律によって、接種を義務付けられたのですが、その年に京都府で70数人の乳児幼児がジフテリアの予防接種のために死亡し、法律の実施が1年間延期されたいわくつきのものです。この70数人の犠牲者は国家に賠償を要求するでもなく、特異体質として泣き寝入りになり、1人10万円位の葬式料で済まされたのではないでしょうか。今度また名古屋の港保健所の実施した百日咳とジフテリアの予防接種に接種液を腸チフスとパラチフスのそれと間違い、高熱を発して入院した子供が84人ありました。

予防接種の第12条の2項には、「腸チフスまたはパラチフスの予防接種に対する禁忌徴候の有無について健康診断をおこなわなければならない。禁忌徴候があると診断したときには、その者に対して予防接種をおこなってはならない。」とあります。ところで、禁忌徴候の診断がそんなに容易なものではないので、副作用を起こすの当然のことです。

腸チフス・パラチフスの予防接種の後たいていの人は38度前後の発熱がありますが、時には1週間くらい高熱が続き、頭痛や咽喉痛があって、ちょうど腸チフスのような症状を呈することがあります。そういうのは西医学を子供のときから実行している人に多いようです。そもそも、黴菌━━いくら弱くした菌にしろ━━や黴菌の毒素を体内に入れて健康になると考えるのはおかしいことです。戦争中、満州で腸チフスの予防接種をやった衛生兵が、約2週間後に腸チフスに罹り、それがまたひどい経過を辿ったことを記憶しています。

BCGの接種で潰瘍ができ、半年以上も治らなかった兵隊もありました。湿疹があるのに種痘をやったら、全身に広がり、肺炎を起こして急死した例もあります。

ビタミンCが不足すると皮下出血を起こし、黴菌の侵入門戸をつくるので、伝染病に罹るのです。黴菌と共に生き、黴菌と共に天寿を全うするのが、西医学の精神です。文化生活は副腎皮質の機能を損なって感染に対する抵抗力を弱めています。

私の子供は予防接種をやると、あと何日も熱が続く特異体質なので、学校の先生に頼んで一切免除してもらっています。

酒・砂糖・タバコ

病気の原因は酒・砂糖・タバコのいずれかにあるのが普通です。贈り物としてよく使われ、また貰って喜ばれるのも酒・砂糖・タバコです。酒は百薬の長とも百毒の悪とも言いますが、アルカリ性体質や低血圧症の人には少量(夕食時に盃1、2杯)のお酒は有効でしょう。しかし、酸性体質や高血圧の人にはよくありません。動脈硬化を起こすと、それをアルコールの刺激で循環させようとして、酒がやめられなくなるのでしょう。

日本酒なら3倍、ビールは2倍、ウィスキーや焼酎なら30倍の水を、20時間以内に飲めば、アルコールを体外に排泄できると言われています。

酸性体質の人は大酒によって、便秘の人は脳溢血、水を飲まない人は肝硬変、運動不足または労働過激の人は狭心症を引き起こし、アルカリ性体質の人は胃潰瘍などを誘発することが多いようです。

日本酒1合がごはん1合に匹敵するもので、酒飲みの人が栄養過剰に陥るのは比較的多くのカロリーを摂っているからです。動脈硬化も心臓障害もアルコールで筋肉が硬化し、余分のアルコールが脂肪に変わって沈着するからです。

砂糖の消費量は文明の尺度であると言われますが、文明になるほど、歯が悪く、見かけ上、体格はよくても耐久力に乏しいという結果は、砂糖が影響しているものと思います。

子供は成長するので、栄養の補給が追い付かないために、甘いものを欲しがります。母乳や牛乳にも乳糖が入って甘味がついています。しかしショ糖は体内のカルシウムを奪って、血液を酸性にします。中耳炎、扁桃腺炎になったり、風邪引きやすく、よく熱を出す子供は砂糖と卵の与え過ぎを証拠立てるものです。

白砂糖には許容量というものがあり、1日につき体重1kg当たり次の通りです。

年齢        1日の許容用量

生後6ヶ月未満   0.1g

6ヶ月ー1年未満  0.2g

1年ー10歳未満  0.3g

10歳ー20歳未満 0.4g

20歳以上     0.5g

たとえば体重20kgの8歳の子供は6gを超えてはならないわけです。

普通の角砂糖は1個約4gです。

赤砂糖は2倍、黒砂糖は3倍、蜂蜜は5倍までよいことになっています。

餅菓子1個、洋菓子1個、コーヒー1杯につきコップ1杯(約200cc)の水を4-7時間以内に飲めば、砂糖の害は消えるということになっていますが、無制限ではなく、右の許容量の5倍までです。特に病気の人(肺病など)や外傷のときは黒砂糖でも体内で漂泊して白砂糖にしてしまいますので、砂糖は避けたほうが安全です。戦争直後、結核患者に政府が白砂糖を特配したことがありました。 

なぜ砂糖や酒が欲しくなるのか考えてみましょう。我々の体内では食物が吸収されて栄養となり、燃えて炭酸ガスと水になるまで、また体内の成分が変化するときは、糖やアルコールの形を一時的にとります。しかしそれが過剰になると障害を起こします。グローミュー(動静脈吻合)は砂糖で溶けて糖尿病体質となり、アルコールで硬化して動脈硬化症体質となります。

我々の細胞は塩漬けにして腐敗を防いでいます。それが汗をかいて食塩を失い、その補給をしないと、砂糖漬けにして細胞を腐らせまいとします。運動したり、汗をかいたりした後、甘いものが欲しくなるのですが、それを我慢していると、今度はアルコール漬けにして腐らせまいとします。このようにして甘党や辛党ができあがるのです。

さてその習慣を絶つには、体内の余分の糖分やアルコール分を燃焼させる必要があります。断食や生野菜食や砂療法をやると、酒飲みの人はアルコール臭い、甘党の人は甘酸っぱい臭いが皮膚から発散します。脚湯法、20分入浴法、20分駈足法のような発汗法は糖分・アルコール分の燃焼法であり、そのあと水分・塩分・ビタミンCを補給します。そうすればやたらに酒や砂糖を好まなくなります。

甘党の人は多くは便秘で口が苦いために、それをごまかそうとしてお菓子を口にします。その際うすいスイマグ水を飲むようにすれば、お菓子に対する欲求を反らすことができます。

ブラジル国サンパウロ州イタベイバ市の堀内清司氏から、次のような趣意書と文献を送っていただきました。

衛生と経済上より見たる喫煙

喫煙が人体に対し有害なる証拠は長年にわたりヨーロッパ並びに米国などの医学専門の特殊研究家たちの研究の結果判明せり。米国専門医学者たちから成る公正委員会が、タバコは有罪の判決を下し、長時間にわたって検討評価した結果、喫煙は健康に害を及ぼす重大因子なる故、事態を収拾する適切な措置をとる必要があると述べ、右委員会の報告に対して、タバコ業界は何ら信頼できる証拠も理論も見いだすことは得ないと推想する。

1964年1月、米国諮問委員会の報告、1962年度の英国医師会や同国国会の行動は、実に世界の良き模範たり。

日本にては政府直営のタバコの日本専売公社により、民衆に課税し、明治37年(1904年)以来、国家費用の調達に充当しつつあり。人体に有害なる事実が判明せる上は課税は他に課税調達を計り、国民の衛生に就き対策を検討せられんことを切望す。厚生省調査の結果は、男子70%、女子5%の喫煙者の比率を発表せり。1962年度の紙巻きタバコの日本専売公社の利益は3523億円なるを紙上に発表せり。米国は大約、年70億$以上を喫煙に消費せると推算す。

衛生と経済との両面より見て、喫煙が人類社会に及ぼす損失は実に莫大なる額に達す。更に悲惨かつ無用なる犠牲を与うる以上に何等益する点なきを思うとき、国民指導の任に当たれる政治家も、教育家並びに公衆衛生指導当局者も、国民の各一人一人も反省し、人類社会の福祉を増進し、良き社会の建設に資されんことを念願す。

リーダーズ・ダイジェストの1954年8月号には「喫煙から肺臓癌が激増」というう記事があります。

同誌1956年4月号「医者はなぜタバコをやめないか」には次のように述べています。

「……タバコの煙は科学的に見て複雑なものであることがわかる。その中にはニコチンの他に、少量の一酸化炭素、炭酸ガス、アンモニア、アルデヒド、ヒ素、アクロレイン、ギ酸、フルフラール、グリセリン、ジエテレン、グリテルおよびベンゾピリーンなどが含まれている。」

「ニコチンは一種のアルカロイドでこれまでに知られている最も毒性の強い物質の1つである。ニコチンは血圧を高め、脈拍を増加させる。それは末梢血管を収縮させる。また肺活量を減少させ、胃の運動を低下させる。その他にも、有害な作用があることは確実である。紙巻きタバコをのんでいると、心臓の冠疾患や末梢血管疾患を悪化することを避けられないことも明らかである。また喫煙するとどうしても胃腸の具合が悪くなる。」

同誌1956年9月号「定期航空の搭乗員が禁煙するまで」には、

「タバコを喫うと大きな影響が2つある。1つはニコチンの影響、1つは一酸化炭素の影響である。この一酸化炭素が操縦士には特に利害関係がある。というのはこれは上空における耐久力を弱めるからである。この毒素は血液の中に入って作用する結果、ちょうど高空に上がったときと同じように酸素の欠乏をきたす。」

「調査の結果はまた、喫煙は暗がりで物を見、明るいところから暗いところへ転換できる能力、つまり『暗黒適応性』を害するということがわかった。」

「ニコチンは確かに体の酸素要求量を10%から15%も高めるらしい。」

私はタバコを喫わないので、タバコの味もわかりませんが、西医学では心臓弁膜症の治療に弁膜にたまった脂肪を溶かすためにタバコ療法というのがあります(実践宝典または家庭医学宝鑑参照)。これは治ったらやめるのです。また、タバコは精力を消耗させるので、戦時中米国は夫の出征した婦人にタバコの特配をしましたが、若い背年に無理にタバコをやめさせると不良化する恐れがあるから、スポーツなどで気分を転換させることが必要であると、西先生がおっしゃいました。タバコを好む人は体臭があるので、それをごまかすために喫うのだとも言われました。断食、生野菜食、裸療法、「つるうま」の使用等によってタバコが嫌になった人も少なくありません。

西式健康法創始者 西勝造創刊 「西医学」 1966年7月号 第29巻第1号

コメント

タイトルとURLをコピーしました